もう30年も前の曲だというのに、未だにブルーハーツの楽曲は結構な頻度でCMタイアップに使用される事が多く、古びた印象も受けないのが実に不思議だ。
ブルーハーツに名曲が多いのは確かだ。
気のいいアンちゃんでありながら、あの頃のイメージのままカリスマを維持し続けてるヒロトとマーシーも偉大だ。
彼等が頑なにブルーハーツの曲を封印してることで、ファンの飢餓感からタイアップが絶えないのも皮肉な話ではあるが、結果後ろを振り返らない二人の姿勢は正解だし、ブルーハーツのブランド(恩恵・遺産)によって今も自分たちの趣味的音楽をやれている二人の状況もまた、ブルーハーツからは永久に逃れられない事を意味している。
ブルーハーツはすごいんだけど過大評価な件
TRAIN-TRAINと僕
ブルーハーツのブレイクは88年(昭和の終わり)で、89年1月(冬クール)斉藤由貴主演のTBSドラマ「はいすくーる落書」の主題歌に「TRAIN-TRAIN」が採用されたことで一気に浸透するわけだけど、私は当時中学生でその時の勢いをものすごく覚えてる。
当時レコードから完全にCDに移行した頃で、レンタルCDに活気があった。
丁度その頃に私もCDラジカセを購入して渡辺美里とか爆風スランプとかをダビングしてカセットテープで聴いていた。
テレビから流れてきた「TRAIN-TRAIN」に一聴して一目惚れ(?)して、すぐにアルバムをレンタルした。
一曲目の同タイトルに胸を弾ませたが、アルバム全部の曲を聴いたらものすごくガッカリした。
キャッチーな曲は「風船爆弾」と「ながれもの」くらいなもので、あとは期待していた曲調ではなかった。
中学生にはまだ「青空」や「ラブレター」は理解できなかった。
それでもブルーハーツの当時の人気はすさまじく、完全にボウイの次に来たトップバンドという印象を受けた。
クラスメイトから1stと2ndも借りたら3rdより全然ノリが良くて気に入った。
期待を裏切り続ける絶頂期のブルハ
それでも次こそはまた「TRAIN-TRAIN」のような神曲が投下されるはずと期待せずにはいれないわけですよ。
で、次にあたる「情熱の薔薇」もドラマ「はいすくーる落書2」の主題歌になり、ブルーハーツ最初で最後のシングルオリコン1位を記録してヒットするわけですよ。
でも個人的には期待値が高かった分物足りない印象を受けました。
4thアルバムの中にも探したけど、「リンダリンダ」や「ハンマー」みたいな曲は残念ながら入っていなかった。
多分僕のように落胆したライト層はかなりいたと思います。
実際その後のブルーハーツのセールスは減少していきました。
「あの娘にタッチ」なんて曲が先行シングルで出された日にはズッコケましたが、「TOO MUCH PAIN」を聴いてもう一度ブルハを信じようと思い直しました。
が、5thアルバムもやっぱり前作同様に僕の中ではひどいクソアルバムでした。
期待値からの落胆落差がこれ以上のものは、人生で他になかったと言い切れる程です。
アルバムタイトルが「HIGH KICKS」とか無駄にカッコイイのも詐欺にあたります。
どうせならアルバムタイトルも「あの娘にタッチ」にしてくれれば期待せずに済んだのに。
1993年のブルーハーツ
もうすっかりブルーハーツには期待しなくなった僕は「STICK OUT」をレンタルする気にもなりませんでした。
先行シングル「夢」が久しくブルハっぽくてアルバムにまた期待してしまいそうになりましたが、3回連続で騙されてるのでさすがにもう落胆したくないので、スルーしました。
ラジオから流れる「旅人」や「1000のバイオリン」もすごく良かったけど、それでもアルバムになると捨て曲だらけに違いないんだと、伸ばしそうになる手を引っ込めました。
続く「DUG OUT」のプロモーションで93年のブルーハーツはとにかくメディアによく出ていました。
当時聴いていたニッポン放送の「伊集院光のOh!デカナイト」で、「DUG OUT」全曲を聴きに集まったリスナーの人気投票で、リカットシングル曲を決めてしまおうという企画が成され、「パーティー」が選ばれてしまったのは不本意だったと思います。
やっぱり初聴きの中高生というのはわかりやすい曲を推してしまうもので、この曲は悪くはないんだけど、アルバム内で丁度良いアクセントになるタイプの曲で、決してシングルで出すタイプのものではないと素人ながらにこの結果に憤慨したものです。
憤慨するという事は、私の中でブルハ愛がくすぶっていた証拠でしょう。
因みに私の推しは「夜の盗賊団」でした‥。
ヒロトとマーシーが現役なのは凸凹のおかげ
結局その後ブルーハーツは諸事情により解散してしまうのですが、現在もヒロトとマーシーが現役で活動できているのは初期ブルハの伝説の曲たちの遺産によるものと思われがちですが、実は後期の凸凹(STICK&DUG OUT)のおかげなんじゃないかと思っている。
もし凸凹のクオリティが中期の期待外れ群同様のものだったとしたら、その後のヒロト&マーシーについていくファンはさすがにいなかったと思う。
ブルーハーツは「リンダリンダ」と「TRAIN-TRAIN」だけの2発屋という印象で終わっていたはずだ。
けど後期の凸凹では楽曲に初期のものとは異なる種の広がりを見せる事に成功し、丁度良いバランスのメッセージ性とポップな耳障りが心地良く、こんな感じのものをずっと提供してくれるのなら、バンド名が変わってもヒロトとマーシーがセットでいる限り聴き続けていこうと思ったファンは多いはずだ。
ハイロウズの「日曜日よりの使者」や「青春」なんかはまさに凸凹の延長線上に当たると言えるだろう。
メッセージ色排除のコミックパンク路線
厳密にはハイロウズもそうだが、クロマニヨンズになってからもそれは加速し、もうずっとヒロトとマーシーはブルハファンが期待するようなメッセージソングは作っておらず、作ろうともせず、むしろ作ってやるものかという信念すら窺えるのだ。
カリスマになるつもりもなかったのにカリスマになってしまった事を完全否定して、とにかくただのバンドマン以上でも以下でもないんだという二人の意志を強く感じる。
ファンもいつしかこのスタイルを貫く二人を肯定する(受け入れる)者と、ブルハの影を追う者と、未だに二分しているが、後者は年々脱落していく為、自ずと現在では前者のファンしか残らなくなったというのが現状だろう。
また売れたくなったらいつでも大衆が期待する売れ線を書けるぜという余裕が二人にはあるのかもしれないし、初老だしもうずっと気ままな路線で余生を駆け抜けるぜってなものかもしれない。
二人はまぎれもない勝ち組なので、金には困ってないし、真の意味で自由なのだ。
自由を許されたポジションを若くして勝ちとってしまった二人にとって、もはやブルハ初期のような衝動は消失しているだろうし、自然体を最優先するならばコミックパンク路線が二人にとっては一番気持ちがいいのかもしれない。
ブルハの影を追うような後ろ向きなファンは一生ブルハを聴いてればいいじゃんっていう考えなのだろう。
それもよくわかる。
巨匠・宮崎駿も「トトロ2を作ってと言われるけど、「トトロ」があるんだからそれでいいでしょ」と答えていたけど、二人もそれと同じ感覚なのだろう。
それでもマーシーのソロが聴きたいよ
ブルハの曲はヒロトとマーシーでほぼ半々ずつですが、私は完全にマーシー派でした。
そしてメッセージ色がなくなった形態でも聴き続けていられてるファンの大半はヒロト派の方々なんじゃないかと思っている。
マーシー派のファンというのはやっぱり「チェインギャング」をしゃがれ声で唄うマーシーに心を奪われたわけであり、今でもマーシーのボーカル曲を聴きたくてたまらないわけですよ。
できればマーシー独特の文学的表現ありきの詩にのせた歌を。
多分マーシーは自身が尾崎豊のようになってしまうことを本気で危惧したんだと思う。
そして布袋さんのようにフロントで目立ちたいという欲もあまりないのだろう。
ファンはマーシーを神格化して崇めているけれど、マーシー自身は「俺はそんなんじゃねーから」といって引っ込んでしまうという図式が延々続いているような感じだ。
サービス精神旺盛なヒロトはまだほんの少しだけファンの要望に応えてあげようとする姿勢も見せるのだが、マーシーは頑なにそれを拒んでるように見えるのだ。
マーシーのソロアルバムが聴きたいよ‥。
そう呟いて亡くなっていくファンがいてもおかしくないよ。
それでもマーシーはクールに「ほい」と過去のソロアルを仏壇に添えるのだろうか。
そんな期待に応えてくれない達観したキャラのマーシーを愛し続けるファンというのはドМであるけど、わかるような気もする。
ヒロトとマーシーは二人で一つだから美しい
バンドのフロント(ボーカルとギター)は大概喧嘩別れするものだ。
バンドなんてビジネスで折り合いがつかなきゃ10年以上も存続できるものじゃない。
売れてもまた印税やらの配分で亀裂が生じて結局うまくいかなくて無期限休止状態のバンドも少なくない。
ミスチルのようなワンマンバンドかB’zのような完全二等分ユニットでもなければ、バンドの存続は難しいのである。
ヒロトとマーシーの対極に位置するのがBOOWYの氷室と布袋である。
BOOWYファンからすればヒロトとマーシーの関係は本当に羨ましいし、最高の理想形に思うだろう。
こんなにも長い間ずっと一緒に同じバンドで活動を継続する二人って‥、ものすごい仲良しである以上に互いに対するリスペクトがすごいんだろうなと感じる。
カリスマ同士のコンビなんて絶対ぶつかり合うのが世の常なのに、二人は互いの意志を尊重し合い、決して縛ることなく自由意思で離れる事がないのだから。
だからバンド名がクロマニョンズであろうと、やってる音楽がコミックパンクであろうとも、ファンは二人を眺めてるだけで幸せな気持ちになれてしまえるのだろう。
ズルくて素敵な二人の活動をこれからもずっと追いかけていきたいなと思わされてしまう事が、ちょっと悔しい。