90年代回顧録

無気力な虚無と絶望の哀歌「空気吸うだけ/高橋幸宏」

世の中には暗い歌、いわゆる鬱ソングといったものはいくつも存在するが、J-POPの枠組みの中で無気力感、虚脱感を表現した諦めと失望を歌う曲というのはなかなかお目にかかれないと思う。

インディーズではなく、あくまでメジャーグラウンドで、元YMOの高橋幸宏氏の歌であるということも驚きに拍車がかかるというものだが、とにかく異質で湿度がゼロ%のこの曲をまず聴いてみてほしい。歌詞をじっくり聴き入れながら。

高橋幸宏 空気吸うだけ 歌詞

↑今見ると関ジャニの安田に似てるw

空気吸うだけ/高橋幸宏

この曲は1991年2月にリリースされたシングル「愛はつよい stronger than iron」のカップリングとして初出し、翌月発売されたソロアルバム「A Day In The Next Life」にも収録されている。

僕はこれをリアルタイムでYMOファンの姉から借りて聴いたのだが、鬱屈した思春期の闇に埋没してしまいそうなほど陰鬱な影を背負っていた当時の僕の心境を代弁してくれてるようで、ものすごく歌が心にフィットしたのを覚えている。

一般的には高橋幸宏という人はYMOのライディーンを作った人という以上でも以下でもない印象のアーティストであるが、個人的にはそのプラスアルファとして、この「空気吸うだけ」という名曲をひっそりと世に送り出した人という位置づけだ。

この曲のなにがすごいって、もう全部に失望しきってて、こうありたい!という前向きな主張がいっさいなくて、しいて言うならどんなふうにも生きたくないというのが主張であり、モダンもノスタルジーも否定して、なにもかもを諦めて疲れ切った男が最後にたどり着いた様はただ呼吸するだけの存在という、儚さとやるせなさに終始した美しき絶望が淡々と表現された極めて稀有な歌なのだ。

虚無感に包まれた究極の世捨て人ソング

せつなくない 信じてない

夢なんてない 傷つかない

希望はない 未来もない

悲しくはない 愛さえもない

出典元:空気吸うだけ/高橋幸宏

 

まずこれよくある歌の全部”真逆”を唄ってんですよね。

普通は「せつないけど信じてる」だったり、「傷ついても夢を見る」だったりするのですが、この歌は真逆。

でもだけど決して悲しいわけではないという。

これね、すごくよくわかるんですよ、世捨て人的には。

もう何も未来に期待しちゃいないけど、別に悲しくはないんだからね!っていう強がりとも違う、なんていうかこの虚無感に包まれた状態が心地良いんだってことなんですよ。

愛も希望も何もないけど、ただ息してるだけだけど、僕は別に不幸じゃないよって歌なんだと解釈できるのです。

孤独の華を咲かせて不器用に生きる心の葛藤

あんな奴もこんな奴も僕を知らない

どんな奴もきっと奴も君を知らない

あんなふうにもこんなふうにも生きたくない

昔風にも今風にも生きたくはない

出典元:空気吸うだけ/高橋幸宏

 

誰も僕の事なんて知らないし、本当の君の事も誰も知らない。

あんなふうに生きろと指し示されても、誰を目標にもしたくないし、流行を追っても虚しいだけだし、昔は良かったと言うつもりもない。

まさに引きこもりニートの代弁ソングであるw

これがこの歌のサビにあたるわけですけども、ここの部分も痛いほどよく解ります!

大人から夢や目標を持て!って言われるけど、それを断固拒絶する気持ち。

キラキラした成功者を例に出されて、あんな人になれるように頑張れって言われても、僕は僕だ!っていうプライドもあったりする。

トレンドに浮かれてる同世代の若者を見ても全く共感できないし、かといって昔の時代を美化するつもりもなければ憧れる気持ちも全くない。

一見すると何もないみたいなんだけど、僕は僕なりに息をしながら考えてるんだ!っていう。

だからこそ最後のBメロで吐露する僅かながらにある人並みの欲望が胸を撃つのだ。

せつないほど信じてる

夢みては傷ついて

希望だけ未来だけ

失わない愛がほしい

出典元:空気吸うだけ/高橋幸宏

 

ホンモノ以外は何も欲しくない。

ホンモノを手にする時まで、僕はひたすら空気を吸いながらソレを待ち続ける。

これはそんなペシミストの屈折した感情を見事に表現した唯一無二の歌である。

心を閉ざしてしまって貝のように眠るだけで一日を終えてしまっている人ならば、きっと共感できるはず。

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