伝説のバンドBOOWYのギタリストでありサウンドプロデューサーでもあった布袋寅泰が、まだ23歳で自身が売れる前に結婚した最初の妻である山下久美子は、当時「総立ちの久美子」としてすでに女性ロックシンガーとしての地位を着実に築いていた。
まだ駆け出しのギタリストだった布袋だが山下と結婚した途端にバンドの人気は高騰し、いわば山下久美子は究極の「あげまん」であるわけだが、ここでは今井美樹の不倫略奪愛に至る経緯について語るわけではなく、若き日の才気あふれる布袋が作った山下久美子の「歌と楽曲」にフューチャーしてみたいと思う。
BOOWYとは対照的に、まったく忘れ去られて封印されてしまっているから。
実にもったいないというものです。
山下久美子の80年代布袋三部作第一期
アルバム「1986」は布袋の実験作に溢れてる
BOOWYの「BEAT EMOTION」と同時期に制作リリースされた完全布袋プロデュースの一作目「1986」。
アルバム制作にBOOWYの松井と高橋もスタジオミュージシャンとして参加している。
BOOWYの「BEAT EMOTION」はご存知売れ線ポップであったのに対し、こちらは最初から布袋の実験場かのようにマイナー調の曲が散りばめられており、山下久美子のハスキーウィスパーボイスとの相性も良く、BOOWYでは採用できない曲をこちらで発散した印象。
Happy Birthday to me…& LADY xxx POP!
BOOWYの「PSYCHOPATH」と同時期に制作リリースされた布袋プロデュースアルバム二作目の「POP」。
前年とは逆に一変してこちらは表題通りにポップさを前面に押し出す。
中でも「Happy Birthday to me…」は個人的にも大好きで、陽気なメロディにせつない歌詞が合わさって山下久美子の真骨頂を決定づける。
タイトルチューンの「LADY xxx POP!」は、BOOWYの「PLASTIC BOMB」のような2分強の短さのライブばえする合いの手スカパンクだが、これは是非現代の女性歌手にカバーして蘇らせてほしい。
微笑みのその前で優しくしたいの「Baby alone」
BOOWY解散発表から「LAST GIGS」までの期間に制作された布袋プロデュース三作目で、最後のレコード(LP)アルバムとなった「Baby alone」。
疾走感のあるナンバー「優しくしたいの」のサビはライブで「to you x2」「baby x2」と拳をあげて連呼したくなるようなライブばえ曲。
一方シングルに選ばれた「微笑みのその前で」は山下久美子お得意十八番の失恋ナンバーで、こちらはホッピー神山の鍵盤色が強いが、3分弱の短さの中に布袋の泣きメロとせつなさが全開のThis is山下久美子ソング。
アルバムの締めは「stop stop rock’n’roll」で、第一期布袋三部作を締めくくるにふさわしいライブでも最後に歌われる名曲中の名曲。
セレクションベストアルバム「three in to one」
この80年代布袋三部作からまとめてひとつのベストアルバムに集約。
当時三部作のCDが入手困難で、基本的にはこれを聴いていた。
あとから3部作を改めて個別に1枚ずつ聴いたが、このベストの選曲の確かさに納得する。
たいていセレクションアルバムの選曲にファンは異論を唱えるものだが、これは本当にThis is bestであり、まさに1枚で3粒以上の味を愉しめるお得すぎるベスト盤と言えよう。
↑ マイケル?w
山下久美子の90年代布袋四部作第二期
Tonight~星の降る夜に from album「JOY FOR U」
長年在籍していた日本コロンビアから布袋が在籍する東芝EMIに移籍して、三年弱のインターバルを経ての新たな門出となる一作目。
フジテレビ系「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば」のエンディング曲としてのタイアップが付き、番組に久美子自らも出演して歌唱した。
「ひょうきん族」からの流れを汲む土曜の夜の一抹のセンチメンタルを醸し出す名曲に見事仕上がっており、キラキラしたミディアムバラードで個人的には全楽曲中一番好きな歌。
アルバム「JOY FOR U」はリード曲である「恋の数だけ流した涙」が圧倒的にポップロックで布袋のコーラスの掛け合いが気持ち良いが、他はわりとしっとりミディアム調の曲が主流で、これが新たな方向性なのかと窺わせる。
時期としては布袋のCOMPLEX終了~GUITARHYTHMⅡの間にあたる。
真夜中のルーレット from album「Sleeping Gypsy」
難産を極めたしっとりテイストの二作目。
ひとことで言えば期待外れの駄作。
全曲山下久美子による作詞で、中でもリカットシングルの「真夜中のルーレット」は当時の夫である布袋に対して、疑心暗鬼を募らせた山下久美子のモヤモヤした胸中が如実に歌に乗せられている。
言いだせない素振りがこの頃気になる
なにか隠しているの?
He never answers to me
冒頭からこれである。
リリースは布袋のシングル「LONELY★WILD」と並行して、GUITARHYTHMⅢの制作最中にあたる。
アルバム「CENTURY LOVERS」怒涛の失恋歌考察記
前作の雰囲気から一転して昔の久美子を彷彿とさせるThis is pop。
しかしアルバム終盤は「涙のBROKEN HEART」から「愛してたなんていまさら」、「BABY DON’T CRY」と失恋曲のたたみかけで痛々しいんだけど、まさしく山下久美子の世界観はこれなんだ!と再認識する。
リリースは布袋のシングル「さらば青春の光」と同時期にあたり、この後布袋はGUITARHYTHMⅣの制作に入る。
アルバム12曲中で布袋氏が作詞した歌は2曲にとどまるが、その2曲が「愛してたなんていまさら」と「BABY DON’T CRY」であり、どちらも考察する価値のある内容に仕上がっており、布袋さんはつくづく歌に正直な気持ちを落としこまずにいられない性分なんだなぁと思えるのです。
涙のBROKEN HEART
「涙のBROKEN HEART」はまさにリアルタイムで布袋との別離を予感して決意した山下久美子の想いが自らの詩作により切実に歌われている。
どんなにやさしい瞳で語りかけたって
あなたのハートはどこか遠くをみつめてる
きっとこのまま二人は終わってしまうのね
約束したはずの夢も叶わずに
冒頭からこれである。
曲調はホテイズム全開の歌謡ロックで、布袋のギターが鳴きまくる!
愛してたなんていまさら
続く「愛してたなんていまさら」は布袋の作詞による失恋ソングだが、まるで山下久美子の気持ちを理解した上で代弁してるかのようなフレーズが痛々しくも生々しい!
これをどんな気持ちで書いてどんな気持ちで別れる妻に歌わせたのか。
曲調はこれもホテイズム炸裂のロッカバラードで、普通に失恋ソングとしては秀逸。
一貫して最後まで呪いの歌であり、救いのない恨み節に終始してるのが逆に清々しい!
「もう二度と恋なんか‥しない」で終わる。
BABY DON’T CRY
さらに続く「BABY DON’T CRY」でも布袋が詩を書き、これはうってかわって今度は布袋から久美子へのメッセージとなっており、泣くのはやめて前向きに歩き出そうと歌わせている。
涙の根源は自分(布袋)なのに!!w
布袋のコーラスとギターがこれでもかとバックアップしてるだけに、今後布袋のサポート無しに久美子はやっていけるのか?と尚更不安になる。
宝石 from album「LOVE and HATE」
離婚前で布袋がプロデュースから外れ、キーボードのSIMON HALEと山下久美子で共同プロデュース。
時期としては布袋のGUITARHYTHMⅣ~シングル「POISON」の間。
シングルであり、アルバムリード曲でもある「宝石」の明るさに救われる。
サビでひたすら「好きよ」を連呼するのが真っ直ぐで心地いいんだこれが。
BOOWYを壊したのは山下久美子なのか?
ビートルズを壊したのはオノヨーコだと言われるのと同じくして、BOOWYを壊した元凶は山下久美子の存在であるとしばし囁かれるが、果たしてそう言えるのか。
確かに引き金となったのは布袋が松井と高橋を久美子のサポメンに誘ったことで除け者にされたと感じた氷室が、以前から海外デビューのためにバンドを辞めたいと申し出ていた布袋の解散意向に応じたというものだが、これは布袋の自由奔放な行動と意思によるところに強く起因しているもので、山下久美子は彼の配偶者でもあったため間接的に関わってるとはいえ、戦犯という認識はBOOWYファンの中ではない。
ただBOOWY全盛期と同時期に制作された山下久美子の楽曲が、いつまでも色褪せることなく度々ベスト盤リリースなどで陽の目を見るBOOWY楽曲とは対照的に、全く表出せずに埋もれてしまっていることがもったいなさすぎると常々感じていたので、今回こうしてブログでとりあげてみた次第である。
当時の布袋さんの楽曲は本当に神懸かっていたので、BOOWY同様に山下久美子の楽曲もまた布袋節炸裂のキャッチーなロックチューンがいっぱいあるので、プライベートで離婚再婚したからといって作品を封印してしまうのはあまりに惜しいので、これからは堂々と山下久美子さんには輝いていた頃の布袋楽曲を存分に唄いまくってほしいと願うばかりだ。