ミスチルを知らない日本人は後期高齢者と一桁の年齢の子供を除けば10%に満たないであろうが、同年代同期であるL⇔Rの知名度はそれこそ30歳以下と60歳以上では皆無であろう。
ミスチルと似たようなポップバンドはたくさん存在したが、そのほとんどの才能は無残にも埋もれていった。
90年代のCDバブル期の中で一瞬煌めくも、悲惨な下降線を辿った悲劇のバンド「L⇔R(エルアール)」について、特に熱烈なファンであったわけではないものの結構好きだったライトファン層の立場から語ってみたいと思う。
L⇔R(エルアール)は何故売れなかったのか
フロントマン黒沢健一が職人気質
ヴォーカル&ギターでほとんどの詩曲を担当するフロントマンである黒沢健一が、気難しい職人気質を思わせる雰囲気を醸していたこと、それ故不器用だったのかあまり多方面に顔を出す社交性に乏しく、同期のミュージシャン仲間との交流が浅く恩恵を獲得できなかったこと、低身長でありながらナルシストなルックスと、豊富な音楽知識で玄人受けするプレイスタイルであったことで、親和性に欠いていた事がいまいちヒットの波に乗れなかった要因であったのではないかと個人的には推察する。
スリーピースで陽キャなドラムが不在
L⇔Rは三人組バンドであるが、初期は女性キーボードを加えた4人組で、女性キーボード(嶺川貴子)が脱退した直後にスマッシュヒットをかました。
その意味でもバンドに楽器担当の紅一点は不要であるのは事実だが(ユニコーンもキーボードが女性から男性に変わって売れた)、最初から正式メンバーとしてのドラムが不在であったのは見た目のバランスも悪くよろしくない。
ドラム不在のバンドといえばGLAYだが、GLAYは四人組なので違和感はあまりないが、L⇔Rは三人組なのでおさまりが悪い。
考えてもみてほしい。
ミスチルにドラムがいなかったらどうか。
LUNASEAにドラムがいなかったらどうか。
BOOWYにドラムがいなかったらどうか。
にこやかに笑うおちゃらけ担当がバンドメンバーには不可欠で、L⇔Rにはそのキャラがいなかった事でお茶の間ウケに至らなかった。
雰囲気的にはスピッツも同じだが、スピッツには一人だけ奇抜なビジュアルのメンバーが居た事でその点を補っているし、四人組なので違和感はない。
サウンドに凝りすぎて詩が印象に残らない
L⇔Rの音は極めてポップでキャッチーな売れ線の王道である事から、大衆受けする要素が多分にあったが、平成のJ-POPはミスチルに代表されるように「詩」が重要視される傾向にあり、カラオケ文化も相まってリスナーが歌いたくなるようなフレーズであったり、リスナーが感情移入できるような日常を掘り下げた「詩」がウケる時代であったので、洋楽マニアが内容よりも言葉遊びの「韻」を踏むことにこだわりを見せるL⇔Rの詩世界はイマイチ伝わり辛いものがあった。
一方サウンドは緻密で王道ポップスでありながら随所に色々な仕掛けを盛り込んで重厚に仕上げたスタジオワークが音のこだわりを主張する結果、心地良い健一のヴォーカルも伴って歌声も楽器の一つに聴こえてくることで、皮肉にも尚更「詩」が入ってこないのである。
- アーティスト:L-R
- 発売日: 2015/06/17
- メディア: CD
洋楽マニア臭がキツすぎて敬遠される
L⇔Rの古き良き洋楽へのリスペクト感は全面にクローズアップされており、ジャケット仕様からCD盤面に至るまでアナログレコードを意識した作りであったり、楽曲もビートルズ他に対するオマージュに溢れており、洋楽好きの玄人がにんまりするような仕掛けと遊び心満載で、邦楽しか聴いてこなかった素人リスナーからするとL⇔Rを通して音楽知識を獲得できるメリットと新鮮な刺激があるものの、イマイチついていけないという部分もあり、悪い意味での洋楽マニア臭に満ちていたことと、博識なインテリジェンスが鼻につく程に匂うのがマイナス要素だったともいえる。
KNOKIN’ON YOUR DOOR
L⇔Rの代表曲といえば唯一にして最大のヒット曲であるミリオンセラーを記録した「KNOKIN’ON YOUR DOOR」であるが、この曲は95年にフジの月9ドラマの主題歌に起用され、売れるべくして売れたものであるが、その後に立て続けに曲を出すもセールスは伸びず、巷では一発屋の印象で消えていったバンドというイメージだ。
KNOCKIN’ ON YOUR DOOR/L⇔R
職業作曲家・黒沢健一
因みに黒沢健一が提供した楽曲の中で一番世間に浸透した曲は「飲ぉもぉお~♪」でお馴染みの森高千里による「気分爽快」であろう。
L⇔Rデビュー前からアイドルに楽曲を提供する仕事から始めていただけに、今にして思えば黒沢健一はL⇔R休止後はソロをやるよりも職業作曲家として完全に裏方にシフトした方がむしろ道が開けたのではないかと思うと少し残念だ。
彼の作る曲がAKBの曲に紛れていても全く違和感はなかったはずだ。
- アーティスト:黒沢健一
- メディア: CD
余談ですが当時ミスチル桜井と顔が似てるとも言われていた健一氏だが、なんとほくろの位置と大きさまで一緒なんですね!絶対ライバル視はしていたと思いますね。
黒沢健一の冥福を祈る
黒沢健一は2016年12月5日に享年48歳という若さで脳腫瘍でこの世を去った。
ワイドショーで大々的に報じられる事もなく、かつてミリオンヒットを飛ばしたミュージシャンであったとしても、世間的にはほぼ忘れ去られたアーティストであるという悲しい事実を実感させられたものだ。
死の直前にライブ映像のDVD化を急ぐ
L⇔Rは98年に活動休止を宣言して以降、バンドとして再始動する事はなかった。
以後黒沢健一としてソロ活動にシフトして以降、セールスは散々であり、残念ながら死してL⇔Rが再評価されるという流れも特になかった。
彼は自分の死が迫る事を知ってか、急にL⇔R時代の映像を商品化してパッケージしようと全盛期のライブ映像のDVD化を推し進めている最中に息を引き取った。
死の翌月2017年1月に最も輝いてる時代の彼をパッケージしたライブDVDが無事リリースされた。
ヴォーカリスト黒沢健一を堪能してほしい。
L⇔R live at Budokan”Let Me Roll it! tour 1996″ [DVD]
- 発売日: 2017/01/18
- メディア: DVD
ラストアルバム「Doubt」の魅力
因みに私個人としてはL⇔Rのアルバムの中ではラストアルバムである「Doubt」が一番好きです。
これまで一貫してアルバムタイトルに「L」と「R」をこじつけていたこだわりをなぎ捨てて、吐き捨てるように放った最後のバンドサウンドは、これまでの耳障りの優しい心地良いポップスからの脱却を示すかのようなロックへと昇華しており、「俺は真面目なイイ子ちゃんなんかじゃない!」と世間の持つイメージにキレてるかのような獰猛な黒沢健一が顔を覗かせているようでいながら、やっぱりサウンドは緻密で神経質で粗さをいっさい見せない所が、不器用な天才肌である黒沢健一らしくて愛おしい。
L⇔R Doubt tour at NHK hall~last live 1997~ [DVD]
- 発売日: 2017/08/18
- メディア: DVD
黒沢健一氏の冥福を改めて祈る。