心の声を聞け

初恋の君が久しぶりに夢に出てきたから気持ちを整理してみる

夢の中でも僕等は疎遠でもう気軽に会える仲じゃなかった。

君は出前のバイトをしていて食材を届けに来る。

「これどうするんだっけ?」「これはこう開けるんだよ」

そんな事務的な会話であっても僕は嬉しくて、その受け答えが相変わらず君らしく柔らかで、なんだかとても懐かしい気持ちが一気に僕の胸を駆け抜けた。

僕は久しぶりに聞いた彼女の声を脳裏で反復して、幸せな気持ちになったと同時にとてつもない寂しさに襲われて泣きそうになった。

彼女はあっという間に帰って行ってもういない。

伝えそびれた言葉を何一つ僕は君に伝えていない。

これからもずっとこんな感じで、僕は君の幻を探すのか。

今でもあの頃の君の声が、好きなんです。

恋に堕ちた理由

もう随分君の事なんて正直忘れていたよ。

確かに君は僕の初恋の人で、僕の年表史実からは外せない重要人物だけど。

でも君と関わった時間なんて四半世紀も前の半年間のうちのバイト中だけだし。

そうそう、彼女とはバイト先で知り合ったんだ。

僕はそれまで引きこもりだったんだけど、ハタチになって自立してバイトを始めたんだ。

ランチもやってる居酒屋レストランだったんだけど、バイトの8割が専門大学生で、1割が高校生で、1割がフリーターという割合で、今では考えられない程フレッシュな職場だった。

同年代の連中と絡むのは僕にとっては久しぶりで、というか厳密には初めてに等しくて、引き籠りあがりの僕はどう見ても明らかに普通じゃなくて変だったろうし、きっとみんなからは気の毒な奴と思われていたに違いなかった。

けどたまたま運が良かったのだろう。

在籍していた学生バイトの男の子も女の子もみんな僕に優しかった。

店長だけは厳しくていつも怒られていたから、きっとみんな同情してくれてたんだろう。

みんなからは僕一人だけ下の名前で呼ばれて、マスコットキャラのように愛されていたのが心地良くて、遅れてきた青春を取り戻したような感覚だった。

そんな中において、君だけは僕の事を「〇〇さん」と苗字でさん付けで呼んでいた。

年は僕より一つ下だったけど、君はバイト上がりで社員になったばかりで、アルバイトとは距離を置くスタンスだったのかもしれないが、それでも僕にはその呼ばれ方が逆に新鮮だった。

みんな優しくしてくれたけど、君は社員の立場からなのかひときわ僕に気を遣って丁寧にものを教えてくれた。

赤茶色の髪を後ろで縛っていて、年の割にメイクは濃くて、小柄で上目遣いで、胸は少し大きく見えた。

タバコも吸っていたし、原チャに乗って出勤してたし、今考えたら結構ヤンキーだったのかもしれないな。

けど言葉遣いが綺麗で、なにより声や仕草が可愛かった。

僕が見ていた君はきっと演じられた外面だったんだろうけど、それでも童貞だった僕にはそんなこと判らないし、総合的にタイプだったんだ。

初恋の定義

色々あったけど仕事量が割に合わないと感じて半年でバイトを辞める事にした。

どうせ辞めるんだから、彼女に告白してから辞めればいいかとも思ったが、もし振られて辞めたら彼女が責任を感じるかもしれないと考え、きっちり辞めてから電話で告白する事にした。

ええ、結果はものの見事に撃沈です

でもバイト辞めたし別にどうでもいいやって、次なる新しい環境に僕は目を向けました。

経験もなく、ただ若かったのです。

半年間育てた恋心を投げやりな形で、どうせダメだろうけどOK貰えれば儲けもんみたいな感覚で、雑に告白するとか本当にしょうもないです。

どっちにしろダメだったかもしれないけど、もうちょっとバイトを続けて遊びに行くイベントを設けたり、もう少し色々やり方はあったんじゃないかって今なら思うけど。

確かバイトを辞めようと思った理由も、その頃ちょっと彼女に対して嫌な所が目についてきていて気持ちが冷めてきていたっていうのがあった。

だから振られても傷付かないように、冷めた頃合いに告白すればいいという狙いがあった。

そんな気持ちならもはや告白しなくてもいいじゃんって思うけど、好きだったことへのケジメとして、どうしても人生初の「告白」をしてみたかったんだと思う。

つまりもう振られるべくして振られたわけで、最初からつきあえるなんて思っちゃいなかった。

引きこもりあがりの童貞にしては頑張ったんじゃないか?

甘酸っぱいと呼べるほどの思い出もたいしてないけれど、彼女の顔や声は今でも鮮明に思い出せるし、彼女にときめいた瞬間の気持ちは紛れもなく僕にとって貴重な財産だ。

「初恋」をくれてありがとう!

あの時、僕は電話で君にそう言うべきだったのかもしれない。

けどその時はこれが初恋だなんて思っちゃいないから。

小学生の頃に好きだったコの事を初恋だと認識していたから。

でも小中学生の時のクラスメートに対する片想いと、何が決定的に違うのかと定義付けるなら、それはきっちり相手に想いを伝えたからに他ならない。

ひどく雑な告白だったけれど、それでも初めて恋にケジメをつけたのだから、だからこれが初恋だったのだと今では認定できるのだ。

夢から醒めたらあれから四半世紀も過ぎていた

あれから一度も会っていないし、当然現在の君の姿を見てみたいとは思わないけど、でも一周回って会って話してみたいという気持ちもなくもない。

僕の余命があと三ヶ月だったとしたら‥会ってみたいかな?別にいいかな?

つきあえもしなかった君が、初めて体験した女性より、初めて交際した彼女よりも、僕の中で大きな存在であるのは何故だろう。

おそらく初めて体験した女性より、初めて交際した彼女よりも、君を想って悦んだり苦しんだりした時間が長く、好きだという気持ちが心を支配した感触があるからだろう。

引きこもりあがりの僕に恋は刺激が強すぎた。

けどまっとうに君に恋したおかげで、その後も健全に?女性に恋する経験を重ねる事ができたのだから、初恋の君には感謝しかないんだ。

だいぶ美化されてるかもしれないけれど、僕が君に恋したあの時の気持ちは、可愛らしくて微笑ましくって、夢と希望にあふれていた若さが今となってはとても眩しいよ。

君が今どこでどんな生活をしているか知る由もないけれど、柄にもなく幸せでいてくれたらいいなって心の底から思うんだ。

なんでだろ?

夢の中でも君は僕に素っ気なかったけど、あの頃と同じ柔らかい声で僕に何かを教えてくれていた。

それはいつしか忘れていた人を想う気持ちのようなものだったのかもしれない。

思い出は夢と同じようにすぐに記憶の彼方に埋もれていってしまうものだけど、心の片隅に君は僕の中でずっとあの頃のまま生きています。

初恋は永遠だなんて、そろそろ僕の死期が迫ってるのかもしれないな?

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